西にも東にも医学の元になったガレノスの偉業
紀元129年にペルガモン(現トルコ)に生まれた医師ガレノスは多くの書物を書き残しヒポクラテス、イブンシーナと共に現在の医学の基礎を作り上げました。彼の書物は古代から中世の1300年にわたり多くの国で用いられました。
<ガレノスの呪縛という誤解>
ガレノスについては誤解も多く、1300年に渡りガレノスの著作が教科書として使われました。それ故、ガレノスは医学の進歩を1400年遅らせたと言われています。それはヴェサリウスの著作「ファブリカ」に由来しています。ヴェサリウスは1400年前の人体解剖が禁止されていたローマ時代のガレノスの著作と当時可能になった人体解剖を比較して、ガレノスは間違っていたと批判しました。出版した1543年を近代の解剖学の始まりと言いいます。それから、その後も使われた瀉血法の解釈により、ガレノスの呪縛という誤解がさらに生まれていったのでしょう。
<ガレノスの実験>
ガレノスは当時の最先端の科学を用いて体についての実験医学的アプローチを行い、神経、動脈、静脈などの解剖学的発見ばかりではなく、生理学的な証明も行っていました。
ガレノスの解剖学の目的はなんだったのでしょう。
「ガレノスの頭の中には、人体解剖そのものよりも、むしろ人間を含めて動物に共通の自然生命力、すなわち身体諸臓器を手段とする霊魂の統御力への探求が大きな比重を占めていました。
つまり、ガレノスが求めたものは、解剖職人ヴェサリウスとは異なり
何が人を動かし、制御しているのか、どのように制御しているのか、
生命とは何なのか
という医学の本質的な問題だったのです。」二宮睦雄先生の「ガレノス霊魂の解剖学」より
<今また見なおされるガレノス>
昨年の研究で、脳科学者ジェフ・イリフさんが報告した中にガレノスのことが語られていました。
「2千年前 最も高名な 医学研究者のガレノスは 我々が起きている時は 脳の原動力である液が 身体の方々に行き渡り 体の各部を活気づけ 脳を干上がらせてしまい 眠っている間に 体中のこの液が 脳に流れ込み 脳を潤し 新たな活力を与える という説を 提示しました。
(中略)(ジェフさんの研究で)脳表面の組織内で起きていることを色を付けて視覚化できるようになりました。脳が眠ると 脳細胞が縮み 脳細胞間の隙間が広がり 脳脊髄液が流れ易くなり 老廃物を排出させます。それでガレノスの説は 全く的外れでは なく彼の言うように脳内を 液が駆け巡るのは 眠っている間なのですから。」
<ガレノスと東洋医学と西洋医学>
ガレノスの時代の医学は中国やインドの医学とよく似ています。ルーツが同じであるという説や交流があったという説などありますが、いずれにしても中国や朝鮮半島を経由して古墳時代から奈良時代、平安時代の日本にも到達していたと考えられています。
つまり、医学は東と西に別れて日本に別々の時代に入ってきました。
今、また再び科学技術の進歩によって分かれて発達したものが統合されて、良い所を補いあうことが可能になってきました。
<医学史と自然生命力>
現在の医学教育において医学史や哲学を学ぶ機会はありません。
近代から急激に西ヨーロッパで発達して世界中に広まった科学・医学・薬学は、ますます加速し、人間性と科学との乖離はますます進み、医学の父たちが説いた医療の本質が現代には伝わってきません。
人類の歴史は進歩と回顧と整合との繰り返しであり、過去にも何度も同じことを経験してきているのです。
ヒポクラテスもガレノスも自然生命力を説き、人間自らが治ろうとする力を信じてきました。
医療人も一般の市民も、近代医学ばかりでなく伝統医学や医学史や哲学を知り、何が健康であることなのか、自らの健康について考え、健康増進の管理を自らが行うことは非常に重要なことです。
「Medicina summa constitutur in fide infinita et caritate profunda inter medicum et aegeru. Galenus 医療は治療者と患者の愛情と信頼の上に成り立つ」 ガレノス